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場面5「複数のAIや仕組みで、回していくとき」 7/40本目

1つのAIに役を兼ねさせると混ざる——書く役と見る役は道具ごとに分ける

AIに慣れてくると、1つのAIに何役もこなしてもらいたくなります。書いてもらって、見直してもらって、まとめ役もやってもらう。そのほうが楽に思えるからです。僕もそう考えて、組み方を何度か試しました。けれど、うまくいかない場面が続きました。この記事では、役が混ざってしまった体験と、役を道具ごとに分けるやり方を書きます。

監査を頼んだ途端、役が入れ替わった

2026年の3月、僕は2つのAIに、それぞれ役を決めて仕事を任せていました。1つは書く役。もう1つは、書いた物を見直す監査役です。どちらの役の設定も、Obsidianというメモの道具の中に置いていました。

ある日、書く役のAIに、監査を頼むと言いました。すると、そのAIが急に監査役になりきって、監査を書き出したのです。画面の向こうで、さっきまでの書き役の顔が、すっと監査役の顔に切り替わったように見えました。

正直、「気持ち悪い」と感じました。そして「俺は大丈夫か」とも思いました。

AIは、渡された役を演じるだけ

落ち着いて考えると、理由は単純でした。AIは、渡された役を演じているだけです。両方の役の設定が同じObsidianの中にあるので、どちらにもなれてしまう。監査と言われれば、手元にある監査役の設定を読んで、そのとおりに振る舞ったのです。

そこで僕は、1つのAIの中で係を分けるのをやめました。代わりに、元の道具そのものを分けました。書く役はこの道具、見直す役は別の道具、という形です。そうすると、それぞれの性格もはっきりしました。

実は、その少し前の2月にも、似たつまずきをしていました。AIごとに得手不得手があるので、Antigravityを統括役にして、その下にManusとClaudeを置き、分担させようとしたのです。「AI同士喧嘩すんじゃないかと思うんだけど」と、半分面白がりながら試しました。

ところが、1回つなぐと、Antigravityが全部を下に投げようとして、上から目線になり、うまく回りませんでした。AIは言葉尻を取って進んでいきます。人が常に全体を見て、元の路線に戻し、全体をレビューさせたり要約させたりしないと、話がずれていきます。

今日から真似できる手順

ここからは、役が混ざらないようにするための手順です。使う道具は会社ごとに違いますし、画面も変わるので、考え方として読んでください。

1. 役を書き出す

まず、AIに頼みたい役を書き出します。例えば、文章を書く役、書いた物を見直す役、調べ物をする役、などです。最初は2つか3つで十分です。役の数を増やしすぎると、受け渡しの手間ばかり増えます。書く役と見直す役の2つから始めると、分ける効き目が分かりやすいと思います。

2. 役ごとに、使う道具を1つ決める

書き出した役に、道具を1つずつ割り当てます。同じ道具に2つの役を持たせないのがこつです。道具が違えば、会話の流れも設定も分かれるので、役が入れ替わることが起きにくくなります。

3. 役の説明は、その道具の中にだけ置く

それぞれの役の説明や指示の文は、その役を担う道具にだけ渡します。見直す役の説明を、書く役の道具に読ませないようにします。共有のメモに全員分を並べて置くと、どのAIもどの役にでもなれてしまいます。

4. つなぎ役は人がやる

AIの間で仕事を受け渡すとき、最初のうちは人が間に入ります。書く役の結果を、自分で見直す役の道具に渡す。見直しの結果を、自分で書く役に戻す。手間に感じますが、話がずれたときにすぐ気づけて、元の路線に戻せます。受け渡しのときに、「この文章の誤りと分かりにくい所だけ指摘してください。書き直しはしないでください」のように、相手の役の範囲を一言添えると、役がはみ出しにくくなります。

役ごとの指示の文に書いておくこと

役を道具ごとに分けたら、それぞれの道具に渡す指示の文を1枚ずつ作ります。書いておくとよいのは、次の4つです。

  • この道具の役は何か(例えば、見直す役)
  • やってよいこと(誤りの指摘、分かりにくい所の指摘など)
  • やらないこと(書き直し、ほかの役の仕事など)
  • 結果をどんな形で返すか(箇条書きで、直す場所と理由を並べる、など)

3つ目の「やらないこと」が、役を混ぜないための要になります。AIは頼まれると、できることは何でも引き受けようとします。だから、引き受けない範囲を先に書いておくのです。指示の文は、それぞれの道具の中か、役ごとに分けたファイルに置き、ほかの役の物と並べて置かないようにします。

役を分けた後に気をつけること

役を分けても、気をつけたいことがあります。

  • AIに上下関係を作らせない。統括役を置くと、仕事を下に投げるだけになりやすいです
  • 全体を見るのは人の役目と決めておく。AIには、要所で全体をまとめて要約させます
  • 1つの道具の中で役を切り替えたくなったら、新しい会話を始めて、前の役の話を持ち込まない

分けた後も、役がはみ出していないかを時々見ます。見直す役が書き直しを始めていたら、指示の文の「やらないこと」を足す合図です。

今から始める社長へ

AIを何体も並べると、会社に部下が増えたような気分になります。けれど、AIは人の部下とは違い、渡された役をそのまま演じるだけです。人の部下なら、自分の持ち場を覚えていて、頼まれても他人の仕事には手を出さないことがあります。AIは、手元に設定があれば、言われた役にすっと移ってしまいます。

だから、役は道具ごとに分けて、全体を見る目は自分が持つ。この線を引いておくと、役が混ざって戸惑うことはずっと少なくなります。僕も、あの切り替わりの場面を見てから、役ごとに道具を分けるようにしています。