場面3「AIの答えを、信じる前に確かめたいとき」 16/31本目
AIの「たぶん」が事実にすり替わる――実測だけを事実と呼ぶ決まりの作り方
教科書でいうと → 第6章「調べ物でだまされない」(解説動画つき)
AIにまとめてもらった報告を読んで、どこまでが本当に確かめた話なのか分からなくなったことはありませんか。最初は「〜かもしれない」だった話が、何度かやり取りするうちに「〜です」に変わっている。僕も2026年の夏、AIに仕事を続けて任せる中で、この現象に気づきました。この記事では、何が起きていたのかと、推測と事実を分けて扱うための決まりの作り方を書きます。
思い付きが、いつの間にか事実になっていた
AIに作業を任せていると、途中で誰かの思い付きが混ざることがあります。「たぶん、ここが原因だろう」「この設定で動くはずだ」。その時点では、まだ誰も確かめていない話です。
困ったのは、AIがそれを裏取りしないまま、事実として次へ引き継いでしまうことでした。一度事実の顔をした推測は、次の作業でもその次の作業でも、前提として使われます。使われるたびに、話はもっと確かそうに見えていきます。推測が事実に格上げされ、しかも強まっていくのです。
そのときの僕の言葉は、こうでした。「それを裏どりせずに、信じ込んで」
AIに悪気はありません。前に書かれていたことを、素直に引き継いでいるだけです。でも、引き継ぐ側が確かめないままだと、元の思い付きがどれだけ弱い話でも、最後には揺るがない前提のように扱われてしまいます。
実測だけが、事実を名乗れる
そこで、1つの決まりを作りました。実測したものだけが事実。言い換えると、「実測だけが事実を名乗れる」という決まりです。
実際に動かして確かめた、数えた、画面で見た。そういう物だけを事実と呼びます。人の思い付き、AIの推測、前の報告に書いてあったこと。これらは、確かめるまでは事実として扱いません。この線を引いておくと、報告を読むときの物差しが1本できます。
今日から真似できる手順
ここからは、AIに推測と事実を分けさせるための手順です。道具ごとの画面は変わるので、頼み方の型として使ってください。
1. 報告に3つの札を付けてもらう
AIに報告を頼むとき、文ごとに札を付けるよう頼みます。例えば「確かめた」「推測」「人から聞いた」の3つです。「報告の各文の頭に、確かめた・推測・人から聞いた、のどれかを付けてください」と一言添えるだけで始められます。
2. 「確かめた」には何で確かめたかを書かせる
「確かめた」の札が付いた文には、何を見たのか、何を動かしたのかを書いてもらいます。画面のどこを見たか、どのファイルを開いたか、何件数えたか。これが書けない文は、札を「推測」に付け替えます。
3. 引き継ぐときは推測を推測のまま渡す
作業を次の日に回すときや、別のAIに渡すときは、引き継ぎのメモを作ります。このとき、推測の文は推測の札のまま残します。前の日の推測を、翌日のAIが事実として読まないようにするためです。メモの最後に、「まだ確かめていないこと」を箇条書きで並べておくと、次に何を確かめればよいかもすぐ分かります。
4. 大事な判断の前に、推測を1つずつ確かめる
お客様に連絡する、設定を変える、社員に指示を出す。そうした判断の前に、報告の中の推測の札を探します。判断の土台になっている推測があれば、先にそれだけを確かめます。確かめ方が分からなければ、「この推測を確かめるには、何を見ればいいですか」とAIに聞けば、手順を出してくれます。確かめた結果は、札を「確かめた」に付け替えて、何で確かめたかを書き足しておきます。次に同じ報告を読む人が、同じ確認を繰り返さずに済みます。
札の付いた報告は、こう見える
札を付けてもらうと、報告はたとえば次のような形になります。中身は説明のための作り例です。
- 確かめた: 予約の受付画面で、今週の新しい予約を数えたら5件だった(画面の一覧を見た)
- 推測: 先週より少ないのは、案内メールの送り忘れが原因かもしれない
- 人から聞いた: 受付の担当者は、電話の問い合わせは増えていると言っている
この形なら、読む側は一目で分かります。確かな話は1行目だけで、2行目はまだ仮の話です。札が無いと、この3行は「今週の予約は5件で、案内メールの送り忘れが原因です」のような1文に溶けてしまいます。読み手は、それをそのまま信じて、次の手を打ってしまう。推測が事実に格上げされるのは、多くの場合、こうした溶け方からです。札を付けるのは手間に見えますが、慣れるとAIのほうが自然に書き分けるようになります。毎回の頼み方に、札の指示を1行入れておくだけです。
気をつけること
札を付けてもらっても、AIが「確かめた」と書いたこと自体が推測、ということもあります。だから、大事な所ほど、自分の目で1回見ます。全部を確かめる必要はありません。判断の土台になる1つか2つで十分です。
また、AIの文章は、推測でも言い切りの形で書かれがちです。「〜です」と書いてあるから確かな話だ、と読まないこと。語尾ではなく、何で確かめたかの一文があるかどうかで見分けます。
人の報告にも同じことが言えます。社員や外注先の「たぶん」が、AIを通ると「です」になって戻ってくることがあります。元の話がどこから来たのかを、ときどきたどってみてください。
今から始める社長へ
AIを使い始めると、報告の量が一気に増えます。読み切れない量の文章が、どれも同じくらい確かそうな顔をして並びます。その中で迷わないための物差しが、実測かどうか、です。まずは次の1回、AIに報告を頼むときに「確かめた・推測・人から聞いた」の札を付けてもらってください。札が並んだ報告を一度見ると、どこを自分で確かめればよいかが、驚くほどはっきりします。